


ペットの譲渡トラブルは、狭義ではペットの所有権の帰属をめぐるトラブルですが、近時、次のような様々な場面で問題となっています。
広義ではペットショップでのペット販売も含まれますが、ここでは除外します。
今回からはこれらの最近顕著なペットの帰属をめぐる争トラブルについて取り上げます。
今回は里親募集と応募をめぐるトラブルについて考えたいと思います。
里親募集と応募は直接の交渉によって行われるほか里親募集応募のプラットフォーム(PF)を介した間接的な交渉によって行われる場合があります。
いずれの場合にもペットの引き渡しは募集者と応募者の直接の対面によって行われますが、募集者と応募者の間ではペットの所有権を移転する譲渡契約(里親契約)が結ばれるのが通常です。
里親契約は募集者と応募者が所定の内容の里親契約書を作成して、それぞれが住所氏名を記載して押印することで成立します。
里親契約書の用紙は、PFが所定の契約書をダウンロードして使用することを義務付けたり、募集者自身が作成する場合が一般的です。
里親契約書のタイトルは、譲渡誓約書、譲渡契約書、里親契約書など様々ですが法的効力は同じです。
譲渡後に所有権の帰属をめぐるトラブルが発生する場合には次のようなケースがあります。
募集時や応募時に間違った説明(虚偽説明を含む)がされた場合、譲渡後に譲渡人の気持ちが変わった場合、譲渡後に返還を申し出た里親の気持ちが変わった場合、譲渡人が譲渡後に里親の適性に問題があると判断した場合、トライアル期間の解釈が双方で異なっていた場合などなど様々な場合があります。
里親契約書がキチンとしていて、それらの場合について明確な定義や規定があればある程度の予防や解決の糸口になるかもしれませんが、実際の里親契約書の内容は法律の専門家の関与がなかったのではないかと思われるような杜撰なものが少なくありません。
近時の契約に至る交渉はインターネットを通して行われる場合が多いことが特徴的です。PF、SNS、里親募集団体のHPなどを介してマッチングをし、その後、募集者と応募者が個々にLINEや messengerなどのインターネット通信を利用して契約条件の交渉がされますが、短文で未完結なメッセージの断続的なやり取りだけでは申し込みと承諾の有無や契約内容が不明確であり、契約の成否や条件があいまいなままでペットの引渡しが行われてしまいます。
特に、契約の成否、トライアル期間の取り決め、費用負担、解約条件などの重要事項について双方の認識の違いをめぐるトラブルが多いです。
PFや募集団体によっては、単なるマッチングサービスだけではなく、所定の契約書の利用を勧めたりネット上での契約交渉を勧めたりして、契約交渉に関与してトラブルを避ける工夫をしているところもありますが、十分ではありません。
募集者や応募者が正確な情報を提供しない場合にもトラブルの原因となります。しかし、気に入ったペットの里親となりたい、早く里親に出したいといった事情から事実と異なる記述やあいまいな記述をする方々が後を絶ちません。
一般予防としては、弁護士などの関与によって、PFや紹介者、募集者の提供する所定の譲渡契約書などを作成すること(特に先ほど述べたトラブルの多い事項についてはよく考えて規定すること。)、里親紹介制度や譲渡制度のシステムをトラブル予防の観点から改善すること、PFや仲介者がどこまでトラブルに関与できるかを事前に明確に公示しておくことなどの対策が必要です。

実際にトラブルとなった場合にはどのように対応すれば良いでしょうか?
刑事問題になるケースも報告されているので、刑事、民事の対応を検討したいと思います。
募集者または応募者が相手方を騙して不正な財産的利益を得るために里親募集サイトを悪用する場合があります。刑法上は、詐欺罪(246条)や私文書偽造罪(159条)の問題となります。
例えば、募集者が、先天性疾患のため余命がない犬を健康な犬として高額販売する場合、血統書を偽造して純血種として販売する場合、理由のない高額な金銭請求をする場合など、応募者が、里親となる条件に違反して譲り受けた猫を転売したり、繁殖させたりして不正な財産的利益を得る場合などがあげられます。被害者に財産的損失がなければ刑事問題とはなりません。
虐待事案の場合は動物愛護管理法の問題となります。罰金、拘禁刑。行政機関との連携が有効です。
以下のケースが挙げられます。
所有権に基づいてペットの返還を請求する者(返還請求者)が、譲渡人(募集者)の場合、譲受人(応募者)の場合、いずれもあります。
このケースの場合には話し合いに馴染むと思われるのですが、実際は、双方が所有権の主張を譲らないために激しく対立し、話し合いが困難な場合がほとんどです。所有権を譲歩する側には金銭的調整が試みられますが、お金よりもペットを選ぶというある意味自然な選択を双方がするために合意が困難になります。離婚の際の子供の親権の争いに似ています。
この場合の対応は訴訟や民事調停などの権威のある第三者機関の関与による話し合いが現実的です。
所有権があるかないかという裁判(訴訟)的な視点のみを解決基準とするであれば、初めから裁判をすれば良いのであって調停を利用する意義はありません。調停の存在意義は、第三の道を話し合いと合意によって想像と創造することにこそあるのです。
具体的には、法律や契約条項や証拠資料の活用を合意と説得の手段として利用すること、たとえば、共有関係の構築や共同の飼養などの第三の解決基準の創造などが考えられます。あたかも、共同親権や共同監護と同じ発想になります。
蛇足ですが、私は趣味で江戸時代の古文書の翻刻をしていますが、江戸時代の村同士の土地を巡る所有権の争いの裁定には、入会という言葉がよく登場します。これは、裁定機関が証拠だけでは所有権の帰属がはっきりしない場合に双方の共有と同様に扱おうということですが、参考になります。
このように発想の転換をすることにより、調停は訴訟とは異なった輝きを取り戻すことになり、第1回期日から調停不成立となり、訴訟しか解決手段が残らないというお互いに望まない道を回避することができます。
プラットフォームによっては、自前の譲渡契約書の書式を準備して、譲渡する場合にはそれをダウンロードして使用することを推奨しているものがあります。
少なくても、譲渡契約書の書式がない場合よりも紛争解決の役に立っていると思います。
今回は実際にトラブルとなった場合の対応や交渉の仕方について渡邉弁護士の経験から蓄積された膨大なノウハウの一部、ほんの一部に過ぎませんが、紹介したいと思います。
渡邉弁護士が扱うケースでは、里親募集サイトを介してペットが譲渡される場合が増えています。
詐欺問題になるケースもありますが、圧倒的多数は所有権の帰属を巡る問題です。
その場合、譲渡合意があったかどうかが最初の争点となります。
また、譲渡契約書が作られていても、条件付譲渡(トライアルを含む)、譲渡人の譲渡意思の「成熟性」(譲渡意思表示の撤回)、他人の所有するペットの譲渡などが問題となる相談が多く寄せられています。
里親募集サイト推奨の契約書を使用しても、トライアル期間の定めが不明瞭であるためにトライアル期間中かどうか、ペットの返還条項に該当するかどうか、当事者の事前の説明やプロフィールに嘘があった場合などが問題となります。
この場合は何よりも予防が重要です。
里親募集サイトの契約書を補充する覚書(合意者や誓約書等)を別途作ること、譲渡契約書に署名押印する前の受入環境や飼養方法などの調査などが挙げられます。
また、メッセージやメールのやり取りの経緯や内容は契約書を補充するものであり、客観的な証拠としての位置付けもあります。電話よりも積極的に活用したいものです。
実際に引き渡しが終わってしまった後は、もっぱら譲渡人の返還請求の問題となります(引き渡しを受けた里親から譲渡人に引き渡しを求める場合はそれほど多くはありません。)
譲渡人は譲渡契約書の形式や内容は必ずしも完全ではないので、契約内容を明確化しなければなりません。
メッセージやメールのやり取りの経緯や内容は契約書を補充するものであり、客観的な証拠としての意味もあるので極力保存収集することが重要です。
LINE、Messenger、SMSなどの様々なメッセージアプリがありますが、紙媒体での印刷が容易で、受送信時間が明確に記録されるものがお勧めです。
でないと、1枚1枚スクリーンショットを撮ることになります。
返還請求権者は返してもらいたいペットの特定をする必要があります。
交渉レベルであれば、当事者はお互いに問題となっているペットは分かっているでしょうが、裁判(訴訟)を利用する場合は訴状の別紙などでペットの特定をしなければなりません。
名称、種別や品種、性別、生年月日、外見の特徴などの動物病院に提出する程度の特定では不十分です。
マイクロチップの個体識別番号やペットの画像(顔正面や全身など)でより具体的に特定する必要があります。
訴訟の場合は判決取得後に執行官による強制執行が必要となる場合があるので、どのペットが執行の対象か容易に判別できなければならないからです。
訴訟の場合には特に問題となります。
強制執行のときにペットの所在場所が分からないと執行することができないからです。
他方、交渉段階であれば双方の合意ができれば紛争は解決するので、ペットの所在に執着しすぎる必要はないと思います。
高額な探偵費用の回収は訴訟を誘引することになるのでせっかくの合意による解決の道が制約される可能性があります。
交渉は相手方を説得して合意に至らなければ成功しません。
そのための説得方法を検討しなければなりません。
相手方を分析し、依頼者を分析して、訴訟の勝訴可能性、時間、労力、費用などの交渉資源、交渉環境、依頼者の意向などを考慮しながら、現時点での最適な交渉戦略と戦術を考えます。
マーケティングミックスの構築にも似ています。
詳しくは、当事務所のHPの「法交渉心理学入門(連載)」をお読み下さい。
当事務所には日本中からペット問題の相談が集まってきます。
相談内容は、当事者同士の交渉が行き詰まった、これから交渉を始めたいがどうしてよいか分からない、相手方から訴えられた、代理人になって欲しい、他の弁護士の相談が不満、などです。
相談者の意向も多種多様です。
ただし、多くの相談者が訴訟(裁判)を意識しています。
意識するという言葉を使ったのは、訴訟による解決を考える動機が異なるからです。
積極的に訴訟を希望する積極的理由の方から他に方法がないから訴訟を選択するという消極的理由の方、相手が訴訟を起こしたからやむを得ず訴訟に応じるという受動的理由の方など様々な方がいます。
加えて、他のペット事件、例えば、咬傷事故、医療過誤事件、ペットショップなどの事業者間とのトラブルなどとは異なり、双方が所有権を主張し合うようなペット譲渡のトラブルは金銭的解決が難しいので合意による解決が制約される特徴もあります。
しかし、いきなり訴訟ではなく、民事調停の場での合意形成の可能性を検討することが有意義な場合があります。
なぜなら、調停においては、調停が訴訟の前哨としての機能を果たし、予想される訴訟の結果の認識が訴訟を回避し、合意による解決に向けた説得材料となる場合があるからです。
民事調停は「小裁判」と揶揄されることがあり、実際の調停実務を長年経験すると否定できません。
しかし、それを一段高い位置から俯瞰すると、逆に「小裁判」を利用しようという発想が生まれます。もっとも、訴訟と同様の解決方法と解決内容では第3の道を追求しようというADRの理想には遠く及ばないことは言うまでもありません。
逆に、訴訟とは異なった解決方法や解決内容を求めたい場合には合意と説得の方法でオーダーメードの調停の場を作り出していくことが有意義です。
このように調停の場をどのように作り出すかは説得と合意(交渉)を手段とする当事者と調停委員会(裁判所)の力量と能力に委ねられているのです。
里親譲渡問題は訴訟にまで発展する場合が多い事案です。
ペットの引き渡しやペットの寿命や健康状態について考えるとできる限り合意と説得による解決が望ましいのですが、実際は、人間の協議離婚の親権者指定とは異なり、ペットの場合には、説得と合意による解決が難しい場合が多いです。
特に里親契約の譲渡人はやむを得ない事情により里親に出す場合が多いので、ペットに対する愛着は強く、別れた後になってから気持ちが変わる場合があります。
そこで、里親契約の無効やトライアル条項を根拠にペットの返還を求めることになります。
他方、里親もペットに対する愛着は強く、里親がペットの飼養を続けること不安を感じているので、返還には容易に応じません。
金銭で調整できるような事案とは異なり、お互いにお金の問題ではないと考えているので、説得と合意による解決(和解)が難しいのです。
具体的な訴訟戦略や戦術については一概に説明することはできません。事案ごとのオーダーメードの戦略や戦術を策定する必要があります。
ただし、勝訴判決を得た場合、相手方が任意の引渡しに応じないときは強制執行(動産執行)によって強制的に引き渡しを実現することになりますが、ある意味、動産執行の問題が1番の難問であると言えます。
渡邉弁護士は過去に動産執行によって犬の返還を実現した経験がありますが、ある事件の流れの中で高裁裁判官の弾劾裁判の訴追請求人として活動した忘れられない経験があります。
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