


動物愛護管理法(以下「法」ともいいます。)の問題は民事法と行政法が交錯する領域であり、両者が互いに補充・連携することによって解決方法の選択肢が増え、適切な解決を実現することが可能となります。
飼い主や事業者のペットの虐待が疑われる場合には、発見者や従業員は担当行政機関に対して積極的に行政措置要求を求めることが必要とされる場合があります。
他方、飼い主や事業者が不当な行政措置を受けたと考える場合には行政関連法の行政救済を求めることができます。
通常の行政法の関係が行政措置(行政)と行政救済法(国民や住民)の2面関係であるのに対し、ペットの虐待問題(動物愛護管理法)の行政法の関係は、行政措置要求(国民、住民)、行政措置(行政)及び行政救済(国民、住民)の3面関係であることに特徴があります。
ペットの虐待問題を考える場合には、このような3面関係に特に注意する必要があります。
また、ペット虐待問題については、環境省「動物虐待に関するガイドライン(令和7年3月第2版)等のガイドラインが出版されています。
飼養又は保管が適正ではないことに起因して、動物が衰弱する等の虐待を受けるおそれがあるか否かを検討します。
任意の現場確認や聞き取り、必要に応じて25 条第5項に基づく報告徴収、立入検査を行い、同条第4項に基づく命令又は勧告に必要な情報を収集します。
動物の飼養・保管が不適切で、虐待を受けるおそれがある場合などに、都道府県知事などが飼い主に対して、改善のための必要な措置をとるよう勧告します。
悪質な事態への発展を防ぐことを目的とします。
この命令に違反した場合、罰則が適用されることがあります。
動物取扱業者が、法律や命令に違反するなどの重大な問題を起こした場合、都道府県知事などはその業者の登録や許可を取り消すことができます。
(注)措置命令又は勧告
行政は、法25 条第4項に基づき、必要に応じて虐待のおそれがある事態を生じさせている者に対し、期限を定めて、事態を改善するための命令又は勧告を行うことができます。
この際、命令に違反した場合に法46 条の2による罰則の適用があり得るため、勧告を行った上で、勧告に係る措置をとらなかった場合に必要な措置をとるべきことを命ずるというのが通常の手順となります。
なお、命令を課す場合には、行政手続法に基づく弁明の機会の付与又は聴聞を実施する必要があります。
飼い主や事業者が法第 25 条第5項に基づく報告徴収、立入検査を拒否または忌避したり、虚偽の報告を行ったりした場合は、法47 条の3違反として捜査機関に告発することができます。
また、飼い主や事業者が法第25 条第4項に基づく命令に違反した場合は、法46 条の2違反として捜査機関に告発することができます。
飼い主や事業者が行政から動物虐待を疑われ違法不当な行政措置(行政処分や不作為)を受けた場合には、適切な行政救済を受ける法制度があります。
国民は行政不服審査法に基づき行政処分や不作為に不服がある場合に、簡易・迅速・公正な手続きで行政機関に異議を申し立て、行政処分や不作為の違法不当性を問題にして権利救済を図る手続きが保障されています。
手続きは裁判より手軽で費用もかからず、行政自身が問題点を再検討するため、市民にとって身近な救済手段です。
堀井動物園事件
民間の動物園が行政処分の執行停止や取消しを求めて行政訴訟を起こした事例です。
(ア)地方自治体の動物管理センターが努力義務規定に反して不適切な殺処分を行っているとして、住民が行政の責任を問う住民訴訟や監査請求をした事例があります。
(イ)動物自体に原告適格(訴訟を起こす資格)は認められていないが、住民が行政の不作為などを訴えるという形で行政救済が図られることがあります。
①国民からの行政措置要求→②行政の行政措置→③国民の行政救済という国民→行政→国民という三角関係が生じます。
動物の管理が不十分なため悪臭、騒音、ねずみや害虫等の衛生動物の発生などにより周辺地域の住民の日常生活に著しい支障を及ぼしていると認められる事態においては、動物愛護管理法25条1項から3項の規定に基づき、都道府県知事は、行為者に対し、指導、助言、勧告、 命令により生活環境と動物の飼育環境を適切な状態にし、周辺の生活環境への影響をなくすことできます。
飼養又は保管の対象となる動物の数を問わず、都道府県知事は、指導及び助言、勧告、命令を行うことができる。勧告の全段階である。指導や助言を含めたのは、行為者に対する社会福祉的な支援を行ったり、周辺の生活環境の悪化に伴う地域 住民間の対立を調整したりする等、助成的又は調整的な行政指導が求められているからである。都道府県知事は動物の行為者に対 して報告徴収、飼養施設等の立入検査を行うことができます。
都道府県知事は不適正な飼養を改善させ、動物虐待を未然に防止したり、周辺の生活環境の 保全等に係る措置として勧告や命令等をしたりすることができます。
また、動物取扱業の指導・ 監督の権限を有しており、ペットショップやブリーダーといった営利を目的とする業を営む者 (第一種動物取扱業者)や非営利で動物取扱業を営む者(第二種動物取扱業者)の業が適正に 実施されるよう、第一種動物取扱業者及び第二種動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等 の基準を定める省令(令和3年環境省令第7号)等に基づく監督等を行っています。
また、虐待を受けるおそれがある事態及び動物虐待等事案が発生していると疑われる相談・ 苦情があった際には、情報をもとに聞き取りや立入検査等を実施し、まずは実態把握を行う。 飼育改善指導が必要な場合や虐待を受けるおそれがある事態が生じている場合には、命令又は 勧告やこれらの施行に必要な情報を得るための報告徴収や立入検査といった措置をとることができます。
必要に応じて、警察への連絡・通報による情報提供や告発を行い、動物虐待等事案の捜査につなげることができます。
都道府県知事は、虐待を受けるおそれがある事態の是正に係る措置のみでなく、動物の不適 正な飼養に起因する騒音や悪臭、毛・羽毛の飛散、衛生動物の発生による生活環境の悪化に係 る改善のための措置(指導又は助言、勧告、命令)を行うことができます。
なお、中核市によっては、条例による事務処理特例制度等に基づき、上記の業務に係る都道 府県知事の権限が委譲されている場合があります。
都道府県知事は、市町村の長(指定都市の長を除く。)に対し、動物愛護管理法25条2項から5項ま での規定による勧告、命令、報告の徴収又は立入検査に関し、必要な協力を求めることができます。
ペットや地域の野良猫等を巡るトラブルは住民生活に密接に絡んで おり、周辺の生活環境の改善や、虐待を受けるおそれがある事態への対応に留まらず、動物 愛護管理行政において、地域での習慣や人間関係、行為者の置かれている状況等について実態を把握している市町村の協力が効果的であるからです。
動物虐待の該当性判断に当たっては、獣医療について知見のある専門家との連携が重要になる場合があります。
日本法獣医学会が設立され、原則的に地方自治体及び警察からの要請に 応じ相談等の対応が可能となっています。
獣医師会は、動物虐待に関する情報なども発信しており、獣医師による動物虐待の通報義務化に関する普及啓発等も行っています。
獣医師会や民間獣医師と連携し、動物虐待の疑いがある動物について獣医師から獣医学的見解を受けている地方自治体、捜査機関もあります。
ペットに関する法令、条例、通達には、ペットの管理や飼育者の責任を規定するもの、愛玩動物としてのペットの虐待を防止するもの等があります(動物の愛護及び管理に関する法律、狂犬病予防法、東京都動物の保護及び管理に関する条例、犬及びねこの飼養及び保管に関する基準等)。これらは、いわゆる「ペット法」の範疇に入れることができます。
しかし、「身体障害者補助犬法」は「ペット法」と全く別の法律です。
身体障害者補助犬は、盲導犬(盲人の目となる犬)、介助犬(身体障害者の手足となる犬)、聴導犬(聴覚障害者の耳となる犬)のことをいいます。これらの犬は、身体障害者が健常者と同様に社会活動を行うために必要な、いわば「生きた自助具」と称することができるものであり、盲人の白杖や身体障害者の車椅子と同じ役割を果たすものです。従って、身体障害者補助犬は、利用者(ユーザー、レシピエント)である身体障害者の利便性や安全性を図り、社会に安心してその活動を受け入れてもらうために、認定制度が設けられています。厳しい訓練を経て、公的機関である認定機関の難しい試験をパスした優秀な犬のみが身体障害者補助犬として活動することができるのです。
身体障害者補助犬を同伴する利用者に対し、公的施設(公営住宅を含む)や交通機関等の公の場において、犬同伴を理由として利用や立入を拒絶することは禁止されています。また、民間賃貸住宅においても、犬同伴を理由として利用や立入を拒絶することをしないように努力するものとされています。これらの点においてペットとは全く異なるのです。
「補助犬 同伴可」「welcome! ほじょ犬」。公共施設やレストランなどで、このようなステッカーを見かけるようになりました。このシールはどのような意味があるのでしょうか?また、私たちはどのように行動したらよいのでしょうか?
2002年9月、補助犬の普及と障害を持つ人の社会参加を促進するために、「身体障害者補助犬法」が施行されました。 身体障害者補助犬法は我が国で最初の「障害者差別禁止法」です。
補助犬の頭数も増え、補助犬の普及啓発活動は着実に進みましたが、いくつかの課題もあります。
「補助犬の受入拒否」。
同法9条は、不特定かつ多数の者が利用する施設の補助犬受入れ義務を規定します。
ところが、病院、飲食店、旅館等が法律上正当な理由なく受入れを拒否する事例が続発しています。レストランで食事をしようとしたら、犬嫌いのお客様の迷惑になるとの理由で補助犬同伴を断られ、補助犬を店外に繋留し、不本意な食事を余儀なくされた、通院したところ、他の来院者の迷惑になるとの理由で補助犬の同伴を断られたという事例です。これでは、「生きた補装具」としての補助犬の意味がなくなり、補助犬の普及にも大きな障害となります。
補助犬は、他の顧客の迷惑にならないように、多くの候補犬の中から選別され、厳しい行政上の認定基準をクリアーした保健衛生上も行動上も問題がない特殊な使命をもった犬です。補助犬を介して、身体にハンディキャップを持つ人々は健常者と同じような社会生活を送ることができるのです。
補助犬同伴の方々を見かけたら、優しく受け入れてあげて下さい。そして、懸命に仕事をする補助犬には「ご苦労さま」と心の中でいたわってあげて下さい。
もっとも、問題解決には、立法・行政による、法律改正、解釈の明確・統一化、普及啓発活動だけでは限界があります。
補助犬を介して社会と接触する、訓練事業者・訓練士・補助犬使用者等の補助犬側が、情報を共有し、協働して、受入れ側と良好な人間関係を構築しつつ、その過程で法律や健康・衛生面に係る客観的な啓発資料の活用を試みる説得技法を検討すべきです。
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