交通事故により死傷した場合、その損害について加害者側に請求できます。
損害には、大きく分けると、積極損害、消極損害、慰謝料の3種類があります。
積極損害とは、被害者が事故のために支出を余儀なくされた費用のことです。
具体的には、治療費、付添看護費、通院付添費、将来介護費、通院交通費・宿泊費、家屋・自動車等改造費、装具費、葬儀費、弁護士費用、損害賠償請求関係費などが挙げられます。
項目 | 内容 |
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治療費 | 被害者が交通事故によって負った傷害の治療のために支出した治療費や入院費は、必要かつ相当な範囲で実費全額が損害と認められます。 逆に、必要性、相当性がないときは、過剰診療、高額診療として、否定されることがあります。 過剰診療とは、診療行為の医学的必要性ないしは合理性が否定されるものをいい、高額診療とは、診療行為に対する報酬額が、特段の自由がないにも関わらず、社会一般の診療費水準に比して著しく高額な場合をいいます。 |
付添看護費 | 被害者の受傷の部位、程度、年齢、加療の態様などを総合して、入院中に付添看護が必要であれば、それに要した費用は損害として認められます。医師の指示があれば、原告としてその必要性が認められます。 金額としては、職業付添人の場合は実費全額、近親者付添人の場合は、1日6500円です。 |
通院付添費 | 症状又は幼児等必要と認められる場合には、被害者本人の損害と認められます。金額は1日3300円程度です。 |
将来介護費 | いわゆる植物状態被害者などの重度後遺障害者の将来における介護費のことです。医師の指示又は症状の程度により必要があれば被害者本人の損害として認められます。 職業付添人の場合は実費全額、近親者付添人の場合は1日8000円程度です。 |
通院交通費 宿泊費 | 症状などによりタクシー利用が相当とされる場合以外は、電車、バスの料金、自家用車を利用した場合は実費相当分が損害として認められます。また、介護のための近親者の交通費も被害者本人の損害として認められます。 |
家屋・ 自動車等改造費 | 被害者に重度の後遺障害が生じた場合等では、家の出入口、風呂場、トイレなどの改造が必要となることがありますが、被害者の受傷の内容、後遺症の程度・内容により、必要性が認められれば相当額が認められます。 |
装具費 | 義手、義足、義眼、補聴器、車椅子などの購入費、将来の買い換え費用などは、必要な範囲で損害と認められます。 装具には、上記の外に、眼鏡、コンタクトレンズ、歩行補助器具、盲導犬費用、ポータブルトイレ、電動ベッド、ギプスヘッド、水洗トイレ付ベッド、介護支援ベッド、エアマットリース代、リハビリシューズ、エキスパンダー、頸椎装具、コルセット、サポーター、義足カバー、折り畳み式スロープ、歩行訓練機、リハビリ用平行棒、歯・口腔清掃用具、身体洗浄機、洗髪器、介護用浴槽、吸引機、入浴用椅子、体位変換器、入浴担架、障害者用はし、脊髄刺激装置などがあります。 |
葬儀費 | 葬儀費としては、原則として150万円程度、現実の支出額がこれより下回るときはその金額について、認められます。 |
弁護士費用 | 被害者が損害賠償請求するについて、訴えの提起を余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された賠償額、その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額が損害と認められます。 実際には、認容額の10%程度が、事故と相当因果関係ある損害として認められています。 |
損害賠償 請求関係費用 | 診断書料等の文書料、成年後見開始の審判手続費用、保険金請求手続費用など、必要かつ相当な範囲で、損害と認められます。 |
消極損害とは、その事故がなければ得られたであろう利益を失ったことによる損害のことです。消極損害は、一般に、①休業損害、②後遺症逸失利益、③死亡逸失利益の3種類に分けられます。
休業損害とは、交通事故によって負った傷害の治療のために休業を余儀なくされ、その間収入を得ることができなかったことによる損害のことで、具体的には、傷害が治癒するか症状固定となるまでの間に被害者に生じた収入の減少が、その損害にあたります。
休業損害の範囲は当然、事故の被害者の職業等によって、大きく影響を受けます。
被害者の 職業等 | 説明 |
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給与所得者 | 事故前の収入を基礎として、受傷によって休業したことによる現実の収入減が損害として認められます。なお、現実の収入減がなくても、有給休暇を使用した場合は休業損害として認められます。 休業中、昇給、昇格のあった後はその収入を基礎とし、休業に伴う賞与の減額・不支給、昇給・昇格遅延による損害も認められます。 |
事業所得者 | 現実の収入減があった場合に認められます。なお、自営業者、自由業者などの休業中の固定費(家賃、従業員給料など)の支出は、事業の維持・存続のために必要やむを得ないものは損害として認められます。 |
会社役員 | 労務提供の対価部分は休業損害として認められます。ただし、利益配当の実質をもつ部分については、認められない傾向にあります。 |
家事従事者 | 賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎として、受傷のため家事労働に従事できなかった期間について認められます。 なお、パートタイマー、内職等の兼業主婦については、現実の収入額と女性労働者の平均賃金額のいずれか高い方を基礎として算出します。 |
失業者 | 労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性がある者については、一部、認められることがあります。 |
学生 | 原則として認められませんが、収入があれば認められます。 また、就職遅れによる損害は認められます。 |
後遺症逸失利益とは、症状固定後も後遺障害が残り、労働能力を喪失したために生じた収入の減少をいいます。休業損害が症状固定前の問題であるのに対し、後遺症逸失利益は、症状固定後の問題です。
逸失利益の算定は、次の式に従って行います。
なお、それぞれの言葉の意味、内容は、後述のとおりです。
基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
基礎収入額×労働能力喪失率×(67歳までのライプニッツ係数-18歳に達するまでのライプニッツ係数)
原則として、事故前の収入を基礎として算出します。現実の収入が賃金センサスの平均額以下の場合、平均賃金が得られる蓋然性があれば、それが認められることもあります。
事故時概ね30歳未満の、若年労働者の場合には、学生との均衡が考慮され、全年齢平均の賃金センサスを用いるのが原則とされています。
自営業者、自由業者、農林水産業などについては、申告所得を参考としつつ、同申告額と実収入額が異なる場合には、立証があれば実収入額を基礎とするものとされています。
また、所得が資本利得や家族の労働などの総体の上で形成されている場合には、所得に対する本人の寄与部分の割合によって算定するものとされています。
現実収入が平均賃金以下の場合、平均賃金が得られる蓋然性があれば、男女別の賃金センサスによる場合もあります。
労働提供の対価部分は認容されますが、利益配当の実質をもつ部分については、基礎収入として認められないことがあります。
賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎とします。
パートなど、働いている主婦の場合、実収入が上記平均賃金以上のときは、実収入により、平均賃金より下回るときは平均賃金により算定します。
学生、生徒、幼児等、無職者の基礎収入額については、賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、男女別全年齢平均の賃金額を基礎として算定します。
就労の蓋然性があれば、賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、男女別、年齢別平均の賃金額を基礎とします。
失業者でも、労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性がある者については、後遺障害による逸失利益が認められます。この場合、再就職によって得られるであろう収入を基礎とすべきで、その場合特段の事情がない限り失業前の収入が参考とされます。ただし、失業前の収入が平均賃金以下の場合には、平均賃金が得られる蓋然性があれば、男女別の賃金センサスによることになります。
労働能力の低下の程度については、労働省労働基準局長通牒(昭32.7.2基発第551号)別表労働能力喪失率表を参考とし、被害者の職業、年齢、性別、後遺症の部位、程度、事故前後の稼働状況等を総合的に判断して具体例にあてはめて評価するものとされています。
後遺障害による逸失利益は、事故で働けなくなったことによる損害をいうのですから、どの程度の期間、労働能力を喪失したのかが問題となります。
労働能力喪失期間の始期は、症状固定日です。被害者が未就労者である場合、始期は原則として18歳ですが、大学卒業を前提とする場合は、大学卒業時とされています。
労働能力喪失期間の終期は、原則として67歳です。ただし、職種、地位、健康状態、能力等により異なる判断がなされることもあります。
なお、症状固定時の年齢が67歳を超える場合は、原則として簡易生命表の平均余命の2分の1とされます。
後遺症逸失利益についての賠償は、将来得られるはずだった金銭を、現在、受け取るものです。
例えば、10年分の労働能力の喪失があり、それによる減収が毎年100万円分であった場合、単純計算すれば、1000万円の損害があったということになりそうですが、本来であればすぐには得られなかったはずの収入を、今すぐにもらうわけですから、「10年間で利殖できる分(中間利息)を、もらい過ぎている。」という理屈になるのです。
そこで、単純計算して得られる逸失利益の額から、中間利息を控除して、最終的な額を決することになります。
実際には、基礎収入額と労働能力喪失率を掛けて得られる数値に、「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」を掛けて逸失利益を算出します。
死亡による逸失利益とは、事故により死亡しなければ就労により得られたであろう利益のことで、これも交通事故による損害として認められます。
なお、後遺症逸失利益と異なるのは、収入額から、生存していれば支出したであろう生活費を割り引くことです。
算定方式としては、
現実の年収額又は学歴計あるいは学歴別の男女別平均賃金×(1-生活費控除率)×67歳までのライプニッツ係数
学歴計の男女別あるいは全労働者平均賃金×(1-生活費控除率)×(67歳までのライプニッツ係数-18歳までのライプニッツ係数)
となります。
職業や属性によって異なりますが、概ね、後遺症逸失利益の場合と同様に考えられています。
死亡によって本来得られるはずの利益が得られなくなった反面、本来支出するはずだった費用(生活費)の支出を免れることになるため、適正な損害額の算出という見地から、生活費に相当する割合について、控除されることになります。
現在の裁判実務では、概ね次のような基準で控除されます。
①一家の支柱 | 被扶養者1人の場合 40% 被扶養者2人以上の場合 30% |
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②女性(主婦・独身・幼児を含む) | 30% |
③男性(独身・幼児を含む) | 50% |
死亡慰謝料の目安については、出典により異なりますが、次のように紹介されています。
一家の支柱 | 2800万円 |
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母親、配偶者 | 2400万円 |
その他 | 2000万円~2200万円 |
一家の支柱の場合 | 2700万円~3100万円 |
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一家の支柱に準ずる場合 | 2400万円~2700万円 |
その他の場合 | 2000万円~2400万円 |
以上については、あくまでも目安で、具体的事件に対する慰謝料額は、諸般の事情を総合的に考慮した上で裁判所が判断します。
例えば、事故態様が悪質な場合(飲酒運転、赤信号無視等)、事故後の行動が極めて悪質な場合(ひき逃げ、証拠隠滅、被害者に対する不当な責任転嫁等)には、基準額を上回る慰謝料が認定されることもあります。
慰謝料額は、通常の不法行為による慰謝料請求の場合、当該事件に関する全ての事情を斟酌して個別に判断されますが、交通事故での慰謝料の場合、入通院期間を基礎として、画一的にその額が決せられます。
後遺症慰謝料の目安は、次の表のとおりです。
第1級 | 2800万円 |
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第2級 | 2370万円 |
第3級 | 1990万円 |
第4級 | 1670万円 |
第5級 | 1400万円 |
第6級 | 1180万円 |
第7級 | 1000万円 |
第8級 | 830万円 |
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第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
重度の後遺障害の場合には、近親者にも別途慰謝料請求権が認められます。
また、自賠責14級に至らない後遺障害があった場合等でも、それに応じた後遺障害慰謝料が認められることもあります。
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