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遺産分割

遺産分割の流れ

民法上、被相続人が死亡して相続が生じると、被相続人の財産は、帰属上の一身専属権及び祭祀財産を除いて、全て、当然に、相続人に承継されます(民法886条)。
被相続人の財産は、被相続人からみると、「死後に残していった財産」=「遺産」、相続人からみると、「相続によって取得する財産」=「相続財産」となり、遺産と相続財産は同じものです。

遺産分割はまず、全ての相続人が遺産分割の内容及び方法について合意を試みるのが出発点です。しかし、合意ができない場合でも、家庭裁判所の調停又は審判によって遺産分割をすることができます。

遺産分割は、

遺産分割協議(相続人同士の自主的な話し合い)

家事調停  (家庭裁判所で、調停委員を介した話し合い)

家事審判  (審判官による、法律と運用に基づいた判断)

という流れを辿ります。
つまり、相続人同士の話し合いがつかなくとも、民事裁判の判決と同様に、最終的には必ず裁判所の判断によって結論が出されるのです。
しかし、家事調停、家事審判は、必ずしも法律に規定されていない、家庭裁判所の実務・運用に基づいて行われているので、これらを実際に利用する場合には、豊富な実務経験に裏打ちされたノウハウがなければ、それぞれの制度の特性(長所)を活かすことができず、ご自身の納得のいく解決を導くことはできません。すなわち、遺産分割事件の円滑・合理的な解決方法の要諦は、制度の「使い分け」にあるのです。

「使い分け」に関してよく問題となるのは次のようなことです。

(1) 相手方が、特別受益や寄与分その他の問題について、明らかに不合理な主張に固執して、本来の取り分より多くの遺産を取得しようとしている場合調停(話し合い)ではなく、審判(裁判所による判断)で解決した方が、経済的メリットが大きいというケースもあるでしょう。
しかし、調停を不成立で終わらせ審判に持ち込むにあたっては、相手方の主張の当否のほか、次のような点にも留意しなければなりません。

(2) 審判では不動産の取得者を決めてくれない
例えば、息子2人が亡き父親の不動産の取得を巡って争い、調停や審判手続での調整でも取得者の合意ができなかった場合、裁判所はどちらか一方に不動産を取得させるのではなく、その不動産を競売し、その代金を折半せよ、という審判を出します。
これでは、双方にとって意に反する結論となりますので、調停での解決を目指すべきことになります。

(3) 審判では預貯金の分割の判断をしてくれない
預貯金は、ゆうちょ銀行の定額貯金等の一部例外を除いて、原則として分割債権とされ、相続が発生した時点(被相続人が死亡した時点)で、法定相続分の割合で当然に分割されるため、相続人全員の合意がない限りは遺産分割の対象とはなりません。そのため、一人でも預貯金を遺産分割の対象とすることに反対すれば、遺産分割協議や調停の対象とならず、預貯金については、遺産分割協議書、調停調書には載らないことになります。
しかしながら、ここで問題なのは、銀行実務では、相続人による法定相続分に基づく個別の払戻請求を認めていないということです。
預貯金に関しては、実質的な預金者の問題(名義は被相続人だが、実際の預金者は別人の場合等)や、被相続人の生前に引き出された金の行方をめぐって、相続人間で深刻な対立が生じることがあります。
そのような対立の中で、当事者の誰かが、被相続人名義の預貯金を遺産に含めることに反対すると、結局、預貯金を誰が取得するかという問題が宙に浮き、誰も有効活用できない状態となってしまいます(最終的には民事訴訟で決着をつけざるを得ないということになります)。
一部譲歩してでも家事審判を回避することが、結局は最大利益の実現に資するというケースも多々あるのです。

(4) 審判では株式の取得者について事業の実情に適った判断をしてくれない
被相続人が会社を営んでおり、遺産にその自社株があるという場合には事業承継という困難な問題が生じます。
被相続人が自社株を一手に掌握してきた場合には、自社株全部が、長男等の後継者に承継されなければ会社経営に著しい支障が生じますが、自社株の評価が高額で、不公平感を強くもつ相続人の合意が得られない場合が多々あります。最終的に合意ができなければ株式が複数の相続人に分散するという極めて不都合な結果となるおそれがあります。
この場合にも、代償分割等柔軟な解決が可能な、家事調停による解決が望ましいときがあります。

遺産分割調停における手続きの流れ

遺産分割調停の流れはよくハードル競争に例えられます。ハードル競争では、ゴールにたどり着くまでにハードルを一つ一つ飛び越えて行かなければなりません。遺産分割調停も同様に一つ一つのハードルを越えて行かなければなりません。「急がば回れ」というのが遺産分割調停の要諦なのです。
遺産分割調停は次の順番で進められます。

  • ①相続人確定
  • ②相続財産確定(遺産目録の調製)
  • ③相続財産の評価
  • ④具体的相続分の確定(特別受益、寄与分)
  • ⑤分割
  • ⑥調停成立(調停調書作成)

これらのうち、

  • ②相続財産確定では、「使途不明金」について、
  • ③相続財産評価では、評価基準と評価額の調整について、
  • ⑤分割では、代償分割の代償金額と建物敷地の現物分割方法について

紛糾することが多くあります。

遺産分割調停を円滑かつ合理的に進めるためには、調停が成立しなかった場合におこる事態を絶えず視野に入れながら、意見や調停案を冷静に対照・検討することが必要ですが、実際これが難しいことは良く知るところです。
だからこそ、遺産分割専門弁護士の関与と中立・公正な家庭裁判所の仲介がもっとも必要とされるのです。

遺言がある場合とない場合の違い

遺産分割は、遺言がある場合とない場合、あっても瑕疵がある場合とで、その手続の流れが大きく変わってきます。
遺言の有無という視点で手続の流れを示すと、次のとおりになります。

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