前回は最初の相談までの準備について述べました。
交渉の心構えとして、飼主側も事業者側も感情的な表現や相手方を非難する表現は避けることが大切です。
信頼関係が崩壊し、対立関係が全面に出ると交渉による解決の選択肢がなくなり、裁判の選択肢しか残らなくなります。多くの選択肢があった方が合理的効率的な解決を図ることができます。
次に、相手方がどのような考えに基づいてどのような交渉を行うのか予測して、それに対応した適切な交渉戦略を立てる必要があります。
相談を受ける弁護士には飼主の立場と事業者の立場の両方の知識と経験があることが必要です。
何故ならば、ペット問題の解決は裁判ではなく交渉と合意によることが望ましく、そのためには弁護士は両者の立場や考え方に精通していることが必要だからです。また、裁判「訴訟」による場合も双方の立場を経験していれば相手方の行動が予測できるからです。
この問題は「法交渉心理学入門(連載)」のテーマとなりますが、ペット障害事故特有の問題もあるので、相手方の交渉方針の調査・分析については次回に取り扱います。
色々ありますが、ここではそのうちの2つを紹介します。
第1に、最初から訴訟による交渉を試みる場合を除いて、通常は相手方に与える刺激の少ない信頼戦略から始めること。それに対する相手方の反応に対応して徐々に刺激の強い対立戦略に移行すること。
少しでも交渉の選択肢を減らさないため、交渉の初期は相手方の人格特性が不十分のため強い刺激を与えると相手方の強い反応(対立)につながる危険があることからです。
第2に、初期の交渉は面談や電話等の口頭による交渉よりも交渉専門家の指導を受けた文書による交渉が望ましいこと。感情的対立を避け、あいまいな言葉による行き違いを避けるためです。
ペット障害の事例は訴訟よりも合意による解決が望ましいので、いずれも交渉の初期においては相手方に与える刺激を極力減らして信頼関係を維持することが大切です。
しかし、本人交渉の場合は当然ですが、ほとんどの代理人が法交渉心理学の知識も経験もなく、ペット訴訟の知識や経験もなく、事業者側と飼養者側双方の経験がないため、代理交渉の場合であっても合意による解決のチャンスを失い、泥沼の訴訟の道を安易に導いてしまう。事案がネットやマスコミにまで拡散して事業者側の信用や評判が毀損される。
ペット訴訟による当事者双方のダメージは訴訟を回避することによって軽減することができるのにそのチャンスを初めから逃してしまっています。
確かに、当事者双方の代理人を長年勤めてきた経験からすると、交渉と合意による解決よりも訴訟(裁判)による解決が相応しい場合があります。
そのような事案の場合には徹底的に訴訟をすれば良い。
しかしながら、賠償金や制裁を望んでいない飼主、相手方に誠意ある対応を望んでいるだけの飼主など数多くいます。事業者がやみくもに三下り半的な法的文書を送れば良いわけではありません。
訴訟によらない信頼できる第三権威者の仲介による交渉と話し合い(裁判所の調停や弁護士会の斡旋仲裁)による合意で紛争の実態に応じたオーダーメイドの解決を実現することが最も適切な紛争解決手段となります。
2つのポイントでお伝えしたように交渉の開始(初動)は信頼戦略に基づく通知文書の作成から始めることが大事です。
この場合大事なことは内容と表現を区別することと送付方法です。
同じ内容でも表現方法を変えると相手方に与える印象(刺激)が変わることは日常よく経験しますが、これを戦略的に意識的に行うのです。
文書の場合は文字以外の表現方法が使えないので一語一語細心の注意を払って戦略的に書かなければなりません。
自分が言いたいことを書くのが文書の目的ではありません。相手方に交渉と合意による解決を図る意欲を起こさせるのが目的なのです。
また、送付方法も相手方の受ける刺激の強弱を予測して複数の中から最適な方法を選ぶ必要があります。
通知文書の作成は臨床の問題であり、実際の事案に応じて具体的に検討する必要があります。
再度強調しますが、具体的な個々の事案に応じて、相手方と今後どのような関係をどのような過程で築いていきたいのかをイメージしながら作成することが肝要なのです。
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