


今回は、ペットの返還の手続きについて、強制執行を中心に実践に役立つノウハウを説明します。いつもの通り、全て渡邉弁護士の経験に基づくものです。
調停・和解・示談などの双方の合意による返還の場合は任意の引き渡しが期待できるのですが、合意ができずに訴訟となり判決で引渡しが命じられた当事者が任意に返還に応じない場合には引き渡しの強制執行が問題となります。
ペットは不動産ではない有体物なので、強制執行法の世界では動産執行の対象となります。
但し、ペットならではの特殊の配慮が必要です。
原告が裁判で勝訴しても、被告にペットの返還を命じる判決書が出されますが、それだけでは、ペットの返還は実現しません。
判決書に仮執行宣言が付されているか、または、判決が確定した場合に原告は強制執行(動産執行)によって強制的に引き渡しを実現する法的権限が認められます。
三審制が取られている我が国では、敗訴者は上級審で再度審理を求めることができますが、上級審でも一審の判決が維持され、これ以上裁判で争うことができなくなったときに判決は確定し、返還請求権者が引渡しの強制執行をすることができる法的権限を取得します。
また、返還請求権者は、判決で仮執行宣言(ペットの引き渡しの仮の強制執行を認める)が付された場合には、判決が確定しなくても仮の動産執行をすることができる法的権限を与えられます。
動産執行は地方裁判所の執行官が動産の所在する現地に出向いて、相手方の動産を強制的に剥奪する手続きなので、勝訴した原告(返還請求権者・債権者)は、執行官に対して動産執行の申し立てをします。
しかし、申し立てをすればあとは執行官が全てやってくれるわけではありません。
債権者は執行官が現地で円滑安全に執行するために必要な資料(現地までの経路や動産の所在場所を記した地図など)やスタッフ(施錠業者、運送業者など)を準備しなければなりません。執行官との打ち合わせは必要ですが、執行官は裁判所に常駐していないので、電話等を活用して限られたタイムスケジュールで要領よく行う必要があります。
皆さんの動産執行のイメージは債務者の金銭的価値のある動産を差し押さえて競売して債権者に配当する金銭債権回収の手段というものでしょう。
渡邉弁護士は今まで会社の工場や倉庫などに執行官と一緒に臨場して、大量の商品や製品やソフトウェアなどを差し押さえた経験が何度もありますが、買受人(落札候補者)の手配や債権者保管の場合の搬出用のトラックの準備、執行官の差押動産の目録を作るために必要な動産評価の専門家(債権者の社員等)を同行することも必要になります(渡邉弁護士自身が評価したこともあります。)。
しかし、ペットの返還請求の動産執行は、執行官が現地に臨場して強制的に動産を相手方かの占有から剥奪することは同じですが、金銭債権の回収とは異なり、場合によっては現場で差押及び競売によって動産を換価して金銭を配当するのではなく、動産を債権者(裁判で勝訴した原告)に引き渡す(手渡す)、すなわち、相手方から剥奪した占有物(ペット)の占有を債権者に移転することで目的を達成します。
もっとも、ペットの場合には物とは異なった債権者の注意が必要です。いかにペットを安全確実な方法で引き渡しを受けるか?執行のチャンスは事実上1回しかありません。失敗は許されません。
債権者はあらゆる事態を想定して安全確実かつ迅速に引き渡しを受けられるように、現地で何が起こっても対処できるように、想像力をフル動員して、十分な準備をしなければなりません。
執行官は、ペットを現認する際に、判決書に書かれたペット特定情報と目の前にいるペットが一致するか視認して確認します。完全に一致しないと執行官は執行をすることが出来ないので執行不能となります。
マイクロチップ情報が確実なのですが、マイクロチップがない場合は外見や身体の特徴などで補うことになります。
執行は一発勝負です。
相手方からすると不意打ちの状態で執行されなければなりません。事前に執行に関する情報が相手方に漏れてしまうと、または、最初の執行が失敗すると、事実上ペットの執行に大きな支障が生じます(刑事民事の対処規定はありますが)。執行に関する情報の秘密を厳守して、最初の執行で確実にペットの引き渡しを受けなければなりません。
相手方の生活状況や飼養状況の調査など執行場所に円滑確実に到達するための事前調査が必要です。
ペットの飼養場所や飼養状況が分からないと、たとえば、執行してもワンちゃんは散歩中で執行不能ということになります。探偵の利用を検討する必要もあります。
執行を円滑確実に行うために、現地の状況、ペットの所在場所までの経路、交通手段、クルマの駐車場所、錠前取扱業者や警察の協力の手配、立会人・執行官・錠前取扱業者などのスタッフとの打ち合わせ場所を確保する等の執行の準備をする必要があります。
そして、現地の相手方から視認できない近隣地に集合して一同が同時に臨場する必要があります。
ペットの心身はストレスや環境に影響を受けます。
ペットの種類や体型、移動距離や時間の長短に応じて移動方法を検討する必要があります。
夏季や長距離移動の場合、ペットが高齢の場合などにはペット専用タクシーの利用を検討する必要があります。
執行の現場で、相手方から交渉の申し入れがされることがあります。
申立人は、相手方が引き渡しに協力的か、感情や暴力を伴う抵抗があるか、連れ去りの危険性がないか、などの状況に応じて即断即決の対応が必要とされます。
執行官は実行を事務的に行うだけなので、申立人が代理人と相談しながら決定することになります。
執行の事前準備・従前の交渉や訴訟の過程での相手方の態度・相手方のSNSでの発信内容なども参考になります。
執行は一発勝負です。
だからこそ、相手方もペットに対する愛情を持っている場合がほとんどなので、相手方がペットの引き渡しには抵抗をすることを想定して十分な準備をする必要があります。
所長弁護士渡邉正昭プロフィール
渡邉正昭弁護士は、ペット弁護士の先駆けとして、30 年以上ペット問題に取り組んできました。
その間、たくさんの猫や犬を飼養し、ネコ語が分かる弁護士として紹介されています。
また、動物問題の専門弁護士として社会福祉法人日本介助犬協会の役員を長年勤め、身体障害者補助犬法の成立、普及に長年従事してきました。
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