
今回からは動物病院の側からみた獣医療過誤事案の対応の仕方について日頃から気になることを書いてみたいと思います。
というのも、トラブルの拡大や深刻化にしかならないズサンな対応があまりにも目につくからです。これは飼養者側の対応のマズさに起因する場合もありますが、そのような場合への対応も含めて、病院側の対応を再考すべきではないかと思うからです。
ひょっとしたら、自分は間違っていない、相手は悪質なクレーマーだ、とか、どうせ相手は訴訟など起こすはずがないし、できない、などと思ってはいないでしょうか。
その考え方は大変危険であるということをこれから述べたいと思います。
なお、これから述べることは全て渡邉弁護士の実体験に基づくものです。
ペット産業が成長拡大するにつれて、飼養者や社会のペットに対する考え方やお金の使い方が変わり、飼養方法も変わってきました。
ペットは今も昔も家族の一員であるという飼養者の認識は変わりません。
しかし、家族が生活するのに必死の時代は、外飼いが主流、糧食は家族の残り物、不要のペットを捨てたり拾ったり、ペットの医療のためにお金をかける余裕のある家は多くはなく、ペット産業は未発達、小動物の獣医師は少なく、獣医師といえば馬や牛などの家畜が対象…といった時代でした。「ペットのためにお金をかけたくてもお金をかけられない」時代でした。
しかし、時代が進むにつれて、生活の余裕とは関係なく、ペットショップで血統書付きのお気に入りを購入し、室内飼いが通常となり、ネグレクトや捨て去りが厳しく禁止され、飼主の愛情表現としてペットの飼養や健康管理、終のお別れに至るまで積極的にお金を使うようになりました。
また、飼養者は、豊富なインターネット情報に容易にアクセスでき、身近の動物病院から有益な情報を入手することができるようになりました。
このような社会や飼養者の認識の変化は何を意味するのかというと、「納得の出来ないペットの死傷については妥協はせず、納得できるまで諦めない、そのためにはお金がかかっても仕方がない」と思う飼養者が増えてきたということです。
ペットは「物」ではありません、「家族の一員」、さらに「自分の分身」なのです。
このような飼養者の認識の変化を念頭におくと、先に述べた動物病院側の認識がいかに危険なものかが分かります。
「自分は間違っていない、相手は悪質なクレーマーだ、どうせ相手は訴訟など起こすはずがないし、できない」という認識のままだと、「飼養者の主張する事実は間違っている。病院の過失はない。法的責任はない。」という飼養者の心情を無視して対立関係をあおる、上から目線の回答書を送ることになります。さらに悪いことには、「お悔やみ申し上げます」、「心情お察し致します」などの飼養者側の気持ちを逆撫でするような事務的な言葉を付け加えたりします。私はこれを「三下り半」と呼んでいます。
特に、法交渉心理学の知見が十分にない弁護士が間に入ると、飼養者の純粋な気持ちが踏みにじられ、純粋な気持ちが病院や獣医に対する恨みや復讐の気持ちに転化することで単なるトラブルを深刻な紛争に拡大させ、泥沼の裁判状態に陥る危険が生まれます。
そうでなくてもインターネットが高度に発達した現代社会では飼養者側のSNS活動や社会活動が病院経営に悪影響を与える危険もあります。
多くの飼養者は裁判を望んでいません。
愛犬や愛猫がどうして亡くなったのか真実を知りたい、病院に改善をして欲しい、病院に謝罪をして欲しい、という純粋な気持ちを持ち、金銭賠償や法的解決は望んでいない飼主も少なくありません。
しかし、病院側の画一的な三下り半的な2次対応が災いして、飼主の感情を害し、損害賠償請求や裁判まで紛争をエスカレートさせるのです。
自分の子供の命を救うためにはお金はいくらかかってもよい、亡くなった子供にはお金はかかってもよいので立派な葬儀をしてあげたい、ならば、子供と同じ愛情を注いできたペットに対しても同じです。
病院の2次対応の失敗に対する飼養者の怒りが飼主の裁判に向けてのエネルギー(原動力)となってしまいます。
多くの飼養者は自分たちが経験した事実を多くの人に伝えるべきであるという使命感を持っています。
共感感情や自己承認欲求などではありません。
病院が2次対応に失敗すると、自分たちが経験した不幸を他の誰にも経験してほしくないという社会的使命から問題病院や獣医を告発するエネルギー(原動力)になってしまいます。
以上述べた通り、病院の2次対応の失敗が飼養者に強い対立感情を抱かせ、その対立感情がより強い対立的行動のエネルギー(原動力)となってしまうケースが後を断ちません。
この連載では、今後しばらくの間、病院側における正しい2次対応の処方箋についてご説明したいと思います。
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