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ゲーム理論と交渉

第1 ゲーム理論とは

1 交渉の見方については、いくつもの定義づけが行われてきましたが、ここでは二つの例を挙げておきます。

  1. 交渉は闘争を含意するものであるが、同時に交渉当事者に共通する利益を達成するための協同作業である(草野耕一「ゲームとしての交渉」)
  2. 複数の関与者がやりたいこと(目標)とやりたいことの達成の仕方(戦略)に焦点を合わせるコミュニケーションの特殊な形態(L.Crump「Integrative Strategy and Japanese Style Negotiation」)

2 いずれの例からも明らかな通り、交渉には、コミュニケーション=協同作業としての一面と闘争=戦略としての一面があります。戦略の問題は意思決定の問題でもあり、意思決定の分析ツールの一つとして,いわゆるゲーム理論があります。

3 ゲーム理論の正確な定義付けはここでは省略しますが,この理論の着眼点は、相手方の意思決定を想定して自らの意思決定を分析するというゲームにおける合理的な意思決定を数学的に分析して社会活動に応用しようとするものです。

第2 交渉モデルと「囚人のジレンマ」

交渉スタイル

1 「米国型の交渉スタイルは闘争型であり,日本の交渉スタイルは協調型である。」と言われることがあります。
闘争型は,戦略志向が強く,威嚇,計略を用いて交渉目的を達成することを許容し,訴訟による解決は善であると考えます。
協調型は,戦略志向が弱く,相手方との協調を重要視し,訴訟による解決は悪であると考えます。
いずれも一長一短の交渉スタイルであり,どちらが悪くてどちらが良いともいえません。
しかし,協調型は,交渉相手との協調を重視するために,同質社会においては,「馴合い」となり,異なった交渉文化が衝突する異質社会においては,必要以上の譲歩と迎合に堕する危険があります。特に,協調型は,交渉相手が闘争型の場合には,闘争回避のために相手方の要求を不利な条件で受諾する傾向があります。

2 前頁の表をご覧下さい。このような表をゲーム理論では利得表と呼んでいます。
利得表が利用されるのは単純な「(短期間)同時進行ゲーム」と呼ばれるゲームのパターンです。
意思決定の主体はA、Bの2入であり、紛争の当事者です。双方の意思決定は1回だけであり、A、Bとの間には意思の疎通はないものとします。
当事者双方が相手方の意思決定を想定しながら、協調するか、闘争するかの意思決定をする場合に,当事者双方の損得を数字で表現したものです。数字はA,Bの相対的な地位を表すものであり、数字自体に意味はありません。
A,が交渉をする場合には、一方は闘争型を選択し,他方は協調型を選択することができます(Bも同様です)。
いずれの意思決定も交渉者の本心であり、かつ一度した意思決定は変更されないものとすると、闘争型の方が協調型よりもより強い交渉力を有することになります。
協調型を標榜する方は相手方の提案を受けいれるより他に選択肢がなくなるからです。
仮に,Aが協調型を選択した場合,Bが協調型を選択すれば利得は,A=5,B=5となりますが,Bが闘争型を選択してしまうと利得は,A=-1,B=10となり,Aの利得は一転して最低値となってしまいます。
Aは,Bが協調型を選択するか,闘争型を選択するかを確実に予測することは困難ですから,Aが合理的な意思決定をするためには,Bが闘争型を選択することを想定して,自分自身も闘争型を選択せざるを得ません。
何故なら,Aが闘争型を選択すれば,Bが協調型を選択した場合の利得は,A=10,B=-1でAは最高の利得を得ることができるし,Bが闘争型を選択してもその利得は,A=3,B=3となって,Aは安全だからです。
また,Bについても,Aと同様に,やはり闘争型を選択せざるを得なくなります。
結局,A,Bは,いずれも協調型を選択すれば,より大きな利得を得られたにもかかわらず,実際は,いずれも闘争型を選択することになり,より少ない利得で満足せざるを得ません。このようなジレンマを「囚人のジレンマ」と呼んでいるのです。

第3 「囚人のジレンマ」状態からの脱却

1 第1に考えられる方法は,当事者の意思の疎通を図り,相互に十分な情報交換を行うことです。
相互に意思の疎通がないから,当事者は相手方の選択を正確に認識できないのです。当事者が同時に自分の選択を相手方に表明できるようにすれば,良いのではないでしょうか。
しかし,闘争型を選択した当事者が自分の選択を相手方に正確に表明することは期待できません。
結局,相手方が闘争型を選択したのか,協調型を選択したのは言葉だけでは分らなくなります。双方に交渉代理人として弁護士がついている場合には,狭い弁護士社会ですから,双方が協調型を選択するケースはありますが,依頼者が闘争型に固執する場合や弁護士が未熟で闘争型のデメリットを熟知していない場合にはこのような合理的解決は期待できません。

2 第2に考えられる方法は,ペナルティ条項を活用することです。
当事者双方が協調型を選択することを表明しても,その表明が真意か否かは不明です。そこで,一方が協調型を選択し,相手方が闘争型を選択した場合には,例えば,相手方に-6のペナルティを課すのです。
A=-1,B=10の利得をA=-1,B=4とすることができれば,Bは,闘争型(利得4)よりも協調型(利得5)を選択することが期待できます。
しかし,当事者双方の合意によらなければペナルティ条項を設定することはできないし,相手方の不誠実さの発見方法やペナルティの具体的設定基準が明確ではありません。

3 第3に考えられる方法は,同時進行ゲームを交互進行ゲーム又は反復ゲームに変更するということです。
例えば,Aが単純に協調戦略を採ることを予めBに表明することが考えられますが,BはAの言明の信憑性を判断できません。
また,Aが「Aは協調戦略をとるが,Bが闘争戦略をとった場合には闘争戦略に変更する」ということを予めBに表明したのでは,Bにしてみると,脅しや恫喝の類に写るでしょう。
しかし,A,B間の交渉が1回限りの取引ではなく,今後何回も取引を継続するような場合には,当事者間には将来の利得という特別な考慮要因が生じます。日本では,系列会社同士の取引や下請関係等幾らでも例は見つかります。
外国企業が構造的障壁のために市場参入ができないといっていることは,構造的障壁ではなく,「同時進行ゲーム→闘争型交渉→囚人のジレンマ」と「交互進行又は反復ゲーム→協調型交渉→合理的意思決定」との違いであると考えることもできるのです。
当事者としては,同時進行ゲームにように思えても,それを交互進行又は反復ゲームに変更する工夫を考えてみると思わぬ解決策が見つかることがあります。

4 協調型,闘争型という交渉スタイルにかかわる「囚人のジレンマ」状態から脱却する適切な方法は見つかりませんが,具体的場面に応じて頭を悩ませばそれなりの解決策を見つけ出すことができるはずです。苦労して見つけ出した解決策によって問題が解決する。それが交渉の楽しみなのです。

以上

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