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ぼたんの掛け違え

1 今回は,「ボタンの掛け違え」という現象について検討してみたいと思います。
この言葉は全くの私の造語です。しかし,この考え方(概念)を使うと,実践的な目的志向的コミュニケーション(交渉もこの中に含まれます)の行動指針を明快に策定することができます。以下,簡単な例でこの概念を説明します。

2 例えば,夫婦間で,今度の休日の過ごし方について話し合っています。夫は家でのんびりとくつろぐことを希望していますが,妻は家族そろって温泉一泊旅行に行きたがっています。
話の内容はこのようなことです。

・・・・・

夫「いつも仕事仕事で疲れているのだから,たまの休日ぐらいは家でのんびりしたい」

妻「いつも残業ばかりで,家事も全くやってくれない。これじゃまるで母子家庭じゃないか。そんなに仕事が大切ならば仕事と心中すればいい。家庭をもっと大切にして下さい。」(どこかの弁護士の家庭みたいですが・・・)

夫「家庭を大切にしようと思っても仕事が忙しくてできなかった。それに,仕事があるから家庭があるのではないか。そもそも,過去の家族の問題と今度の休日の問題は論理的には別問題だ。家庭と仕事の調和の問題は今後の課題として検討する。しかし,今度の休日の過ごし方を決めるのに,過去の家庭の問題を持ち出すのは筋違いである。」

妻「いつもいつもそのようなことを言われてきたが,結局は,何もしてくれなかった。去年の旅行も結局あなたの仕事の都合によってキャンセルになってしまった。これからは家庭をもっと大事にすると言われても信用できない。いい加減にして下さい。」

・・・・・

この協議はまだまだ続きそうです。
論理的な視点から見ると,論点が二つあります。今度の休日の過ごし方の問題と家庭と仕事の両立の問題。
そして,家庭と仕事の両立の問題が今度の休日の過ごし方の前提問題となっています。
しかし,これは論理的な視点から夫婦間の会話を分析した結果です。
夫の視点からこの会話を見ると,仕事仕事でへたへたになっている自分の状態を理解してもらいたいという強い欲求があります。
他方,妻の視点からこの会話を見ると,日頃夫婦のコミュニケーションが不足しており,家庭や自分のことを夫にもっと理解してもらいたいという強い欲求があります。
その意味で,妻はどうしても温泉旅行に行きたいというわけではありません。自分の気持ちを分かってもらいたい、そのための,代償行為が温泉旅行なのです。
また,会話の進め方についても,妻の方はこれらの欲求を率直に表現していますが,夫の方は論理的な進め方をしており,欲求は言葉の影に隠れています。
この状態が極端になると,離婚問題になったりします。例えば,このよう な会話にまで発展(退化?)したら,離婚警告段階にまで達しているかもしれません。

・・・・・

夫「今は今度の休日の過ごし方について協議しているのだから,問題をすりかえるのはやめなさい。感情的になるんじゃない。もっと論理的に考えなさい。」

妻「どうして人間の気持ちが分からないの?ロボットじゃないんだから?もう少しこちらの気持ちも分かって下さい。どうして分かってくれないの?」

・・・・・

3 どこにでもある夫婦喧嘩のパターンですが,単なる喧嘩では終わりません。近年、実にこのようなことから離婚になるケースが多いのです。
「相手の気持ちが理解できない男,論理に弱い女」という構図ですが,これは本能的な問題ではありません。
「科学→実験一定義一論理(推論)→客観主義」的な方向性は近代科学主義の
根本にある思考様式ですが,この中にドップリと漬かって育ってきた人間は,視点が論理的になります。
抽象的な概念から演繹的に現実を理解しようとします。
そのために,問題意識が目的志向的,論点的になります。
しかし,このような視点では,実験や定義付けが困難な感情,情緒,気持ちといった内因的なものは,等閑視されてしまいます。
実際は,これらの内因的な問題は日常の問題解決にとって不可欠な役割を果たしているのでむしろ重要視しなければならないのです。
ですから,問題は,近代科学主義が標榜してきた客観主義と近代科学主義が等閑視してきた主観主義との対立なのです。
また,日常生活において頻繁に生起する事柄は,いちいち演繹的に考えていたのでは対応しきれませんから,慣習的,反射的,帰納的な対応をせざるを得なくなります。
その意味で日常生活を家庭内で過ごす上記の例の妻の場合には,日常生活という現実的な視点で問題を考える傾向がありますが,夫の場合には,家庭での休日の過ごし方は日常生活ではないので,「休日の過ごし方」という命題の解決方法という視点から問題を論理的演繹的に考える傾向になります(従って,夫の場合でも,職場では決して論理的な思考方法はしていないはずです。)。
いずれにしても,性差による本能的な問題ではないので誤解がないように。

4 コミュニケーションは,相手方の行動を抜きにしては存立することはできません。相手方の行動と自分の行動の相関関係によって時系列的に双方の状況が変化するものがコミュニケーションです。
従って,どのような方針で相手方とコミュニケーションをするかという方略決定の問題は,論争主義的方略,協調主義的方略という具合に所与のものとして決まっているものではなく,相手方の具体的な行動を分析・予期する過程で徐々に形成されていくもの,個別具体的なものなのです。
先の夫婦喧嘩の場合には,夫は,妻の感情的な態度の予兆に敏感に反応して,論理的な協議ではなく,妻の感情面を尊重したカウンセリング的な対応にチェンジすべきであり,妻の方は,論理思考的な夫の理性面を尊重した問題解決型対応にチェンジすべきであったのです。
夫は,問題解決型交渉(感情と論点を分離し,論点に即した形で双方の利害を調整する協働作業が交渉と考える立場,いわゆる「ハーバード流交渉術」)を試みましたが失敗しました。
問題解決型交渉は,論理主義的な交渉のあり方ですが,片方が感情主義的なコミュニケーションを志向する場合には失敗します。感情主義的なコミュニケーションでは問題と感情を切り離して考えることは不可能であり,期待できないからです。

  1. 相手方が問題解決型交渉の場合には問題解決型交渉で対応し,双方の利害関係を調節することが課題となる。
  2. 相手方が感情主義的なコミュニケーションの場合には感情主義的なコミュニケーションで対応し,双方の信頼関係を構築することが課題となる。この状態が「ボタンがきちんとかかっている」状態です。ところが,
  3. 相手方が問題解決型交渉であるのに,当方が感情主義的なコミュニケーションで対応すること,
  4. 相手方が感情主義的なコミュニケーションであるのに,当方が問題解決型交渉で対応することは,いずれも失敗します。

これが「ボタンの掛け違え」の状態です。
私達は,この「ボタンの掛け違え」に陥ったコミュニケーションにならないように相手方の言動に注意を払わなければなりません。
そして,自分にもしも「ボタンの掛け違え」が見つかれば,意地を張らないで,交渉方略の変更をすべきです。
意地になることは自分を変える勇気がないことです。
自分を変えれば相手方も変わります。それが,膠着した交渉の流れを変える原動力になるのです。

以上

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