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遺産分割協議・調停での解決例(5)(相続財産の範囲の射程*特別受益と民事訴訟②) 2024.12.16

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1 「使途不明金」問題の調停での現れ方

前回の「遺産分割協議・調停での解決例(4)」では、「使途不明金」問題について、最初に手続きの進行をシミュレーションした上で、家事事件(調停・審判)と民事事件(訴訟)の手続きでどのようなことをすれば良いのかを説明しました。ただ、訴訟を中心に説明したので、調停・審判の説明は十分に出来ませんでした。
そこで、今回は家事事件を中心に説明したいと思います。

2 使途不明金問題

前回では、「調停では、疑いを持った相続人が相手方に対して遺産の引き出しの状況や使途について質問をすることから始まります」と述べました。
このとき仮に相手方自身が自分が引き出したことを認めた場合、相手方の応答としては、次のストーリーが想定されます。

①被相続人からもらった(贈与)
②被相続人から借りた(消費貸借)
③相手方が保管している(保管)
④必要な費用として使った(費消)
⑤その他

②の場合は相続債務として扱われます。
③の場合は遺産(相手方保管)として扱われます。
④の場合は遺産分割の対象となる遺産は現存していませんが、いわゆる使途不明金問題として、使途の正当性が問題となり、使途の目的、用途、金額などが検討されることになります。
これについては遺産分割・調停での解決例(1)及び(4)をご参照下さい。
ここでは①(贈与)の場合について説明します。

3 ①(贈与)の場合の取り扱い

(1)特別受益(民法903条)の問題となり、家庭裁判所が舞台となる。

特別受益に該当する場合には、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものが相続財産とされ、特別受益を受けた相続人は、自分の相続分から特別受益を受けた遺贈又は贈与の価額を控除した残額が相続分とされます。
つまり、特別受益分が遺産の先渡しとされ、相続人は自分の取得分が特別受益の額だけ減ってしまいます。
ですがら、遺産分割では、特別受益の問題は激しく争われます。

(2)特別受益の問題の争われ方

特別受益の問題の争われ方は次の通りです。

ア 特別受益といえるか否か(要件該当性)

特別受益といえるためには次の要件が必要です。

①被相続人が相続人に遺贈し、または、生前中に相続人に贈与をしたこと
②その贈与の目的が婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として提供されたこと
これらの成立要件に該当するか否かが争われます。

実際には①贈与が負担付きか否か?②贈与が生計の資本の提供といえるか?が圧倒的多数です。
というのも、被相続人、例えば、両親が生前に生活資金を提供する場合は、自分たちと同居して面倒をみてくれる子供に何かしらの期待や感謝の気持ちがあるとき、他の兄弟との公平感や扶養の気持ちがあるとき、その他の相応の理由がある場合が多いので、相続人は、生活資金の提供といっても単純な贈与ではなく、相続分の先渡しではないとの気持ちを持つのが通常だからです。

特別受益ではないと主張する側としては、単に生計の資本の提供ではないと言っても効果的ではありません。
効果的な争い方は、①条件付、負担付贈与②他の相続人とのバランス、③金額や経緯に照らして財産の提供とまでは言えないとの主張です。
争点を増やして出来る限り次の持ち戻し免除の意思表示の問題に踏み込まない段階で争うことです。

イ 持ち戻し免除の意思表示(民法903条3項)

被相続人が明示または黙示で特別受益に該当しても持ち戻しを免除する意思を表示したときは、遺贈または贈与を相続財産に加えなくてもすみます。
被相続人が遺言書で持ち戻し免除の意思を表示していれば明示の意思表示があったとされますが、争いのある場合にはこのようなことはまずなく、通常は黙示の場合が問題となります。
黙示の場合には総合的な事情を考慮して黙示の意思表示がされたかを認定されることになりますが、諸々の事情の中でも被相続人の無効の遺言書が重要な意味を持ちます。

そもそもちゃんとした遺言書が作られていれば遺産分割や特別受益の問題は起きないはずですが、遺言書の名宛人となる唯一の相続人(唯一の受遺者)が被相続人が死亡する前(相続開始前)に死亡したような場合は遺言の名宛人が存在しないので遺言は無効となり、そうすると遺産分割の世界に飛び込んでしまいます。
しかし、死亡した唯一の相続人(唯一の受遺者)の特別受益が問題となる場合には、遺言書の作成時期、趣旨及び内容、遺言者と相続人の関係によっては、被相続人の黙示の持ち戻し免除の意思表示が認められる場合があります。

(3)注意すべきは、以下の2点です。

ア 特別受益の問題は遺産がないと家裁では取り扱えない。

遺産分割は審判事項(家事事件手続法39条別表第2)ですが、特別受益は審判事項ではなく、遺産分割手続きの中でしか扱えないからです。
また、遺産分割は離婚や離縁とは異なり、調停前置主義の対象外なので、最初から審判の申立てをすることができますが、実務は最初は調停に付されて協議され(付調停)、調停合意ができない場合に審判で決定されます。

イ 特別受益と持ち戻し免除の意思表示の代襲性

代襲相続人とは、被相続人が死亡する(相続開始)前に将来相続人となる子供や兄弟(推定相続人)が死亡した場合にその推定相続人の子供をいいます。例えば、祖父の遺産分割で、祖父が亡くなる前に父親が亡くなっている場合は父親の子供が代襲相続人となります。代襲相続とは、代襲相続人の期待を保護する制度です。
代襲相続人は推定相続人と同じ相続権が認められますが、特別受益の関係も代襲されるので注意が必要です。
持ち戻し免除の意思表示は、推定相続人と代襲相続人について問題となります。

4 まとめ

前回と今回で「使途不明金」問題の地裁と家裁の現れ方について説明してきました。弁護士の体験と知識に基づくものです。
文章で書くと難しそうですが、やってみるとそうでもありません。ただ、経験豊富な専門家がいないと勉強が必要となります。
知識よりも大切なことは、自分の事件の対応において何がポイントかを見極めることです〜ここを押さえると裁判官や相手を説得できるという肝(キモ)です。肝は時間やタイミングによって変わります。
ただ言えることは、筋や信念を通すことは大切ですが、遺産分割の世界では、地裁の領域に踏み込むことになり、そのための時間、労力、資金(軍資金)をかけることは当然のこととなることです。

渡邉アーク総合法律事務所&臨床心理士 所長 弁護士渡邉正昭
【渡邉アーク総合法律事務所&臨床心理士】

所長弁護士渡邉正昭プロフィール

弁護士は、30年以上、弁護士、弁理士、税理士として会社の法務や事件に従事してきました。
また、法交渉心理学者として、家庭裁判所の調停委員、非常勤裁判官として、20年間、相続、遺産分割、離婚などの、家事事件に従事してきました。
さらに、簡易裁判所の司法委員として8年間民事事件に従事してきました。
行政庁の顧問や委員としても20年間活動してきました。
会社・企業事件、家事事件、民事事件の知識経験が豊富で、行政や裁判所の実務にも精通しています。

当事務所は、ペット問題に30年以上取り組み、会社企業法務、公認心理師・臨床心理士、税理士、弁理士、経営経済、行政顧問などの専門性を有する法律事務所です。

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