家庭裁判所の遺産分割実務は実際に経験しないと分かりません。
家庭裁判所の遺産分割の実務は、法に加えて、頻繁に改正される個々の裁判所や裁判官の運用によるところが大きく、ネット上の記事は必ずしも正確ではありません。
そのため、法や裁判所の運用と当事者の願望や期待が大きく交錯しますが、当事者の願望や期待は裁判所の実務運用によって制約されるので、裁判所の運用を十分に体感し理解した上でないと当事者は適切な対応ができず、愚痴や不満が残ります。
自分たちの無知に気が付かないで裁判所や相手方を非難する醜態を演じる人もいます。
弁護士を代理人に付けた場合であっても弁護士の家裁経験や知識量が不十分だと依頼者の願望や期待を声高に叫ぶだけで交渉を混乱させ、ひんしゅくを買うことになります。
相続財産の範囲の問題は、民事訴訟と家事調停・審判の分水嶺(境界)の問題であり、遺産分割調停で個々の相続財産を遺産分割の対象とする合意をするか否かによって、その財産の問題が今後、民事訴訟の問題となるか否かが決まります。
そのため、相続財産の範囲の合意をすべきか否かは、①家事手続の予測と利害得失のシミュレーションと②民事訴訟の予測と利害得失のシミュレーションをして、どちらの方が合理的でコスパが良いかを現実問題として検討しなければなりません。
こればかりは遺産分割を巡る家事手続と民事訴訟の実務経験を積んでいないと適切な検討はできません。
経験と知識の差がはっきりと現れるのが「相続財産(遺産)の範囲」の問題なのです。
調停でも証拠調べはできます。
現金、預貯金などの流動資産、株式、動産類などは双方に争いがなければ良いのですが、争いがあれば、相続財産の存在を主張する者が存在を証明する必要が生じます。言葉だけではだめです。その財産を「特定」するために必要な客観的資料を提出する必要があります。証明ができないと家事手続では存在しないものと扱われます。
それが嫌な場合は、相続財産の存在を主張する者は、問題となる相続財産だけを分離して相続財産の範囲を定める民事訴訟で判決を得るか(一部分割)、または、調停不成立にするかの選択を迫られます。
①問題となる相続財産を除外した全部分割調停、②一部分割調停と民事訴訟の併立、③調停全部不成立の3択のどれを選択するかは、調停不成立後の遺産分割審判と民事訴訟の結果及び進行のシミュレーションをしてそれぞれの場合の利害得失を天秤にかけて比較検討しなければなりません(利益*結果可能性*コスト*時間*親族関係*その他)。そして、その事案に即したその時点での最適な選択肢を選ぶ必要があります。
この検討と判断は豊富な実務経験、法や裁判所の実務運用の知識がないと誤ります。特に訴訟経験がないと審判の場合との比較検討ができないので、十分な訴訟経験があるか否かがポイントとなります。
こういった比較検討をしないと、信念を通した結果、見通しと期待が外れ後悔することになります。
相続財産の範囲の問題で実務上よく問題となるのは、存在証明の問題と「使途不明金」問題です。存在証明の問題は、遺産の範囲の確認を求める確認訴訟が典型ですが、調停で存在が明らかにできなかった遺産を訴訟で明らかにするのは難しい場合がありますが、存在を証明する証拠があっても当事者の解釈の違いから調停合意ができなかった訴訟に馴染むケースもあります。
「使途不明金」訴訟は頻繁に経験しますので、次にこれについて詳しく説明します。
被相続人の生前死後に被相続人の預貯金口座から引き出しがあった場合や被相続人には多額の現金や生命保険があったはずなのに死後調べてみたら現金が少なく、保険も解約されていたような場合に問題となります。
長年別居している相続人からみて、被相続人の現金や預貯金が自分の想定していた金額よりあまりにも少ないので、被相続人の近くにいて面倒をみていた相続人が被相続人の現金や預貯金を着服費消したのではないかと疑いを持つことから「使途不明金」問題が発生します。
調停では、疑いを持った相続人が相手方に対して遺産の引き出しの状況や使途について質問をすることから始まりますが、様々な状況と理由から「使途不明金」問題の扱い方についての相続人の合意ができない場合には、「使途不明金」問題の解決の舞台は民事訴訟に委ねられます。
「委ねられる(ゆだねられる)」とは、調停が当事者双方の話し合いと合意による任意的自主的解決であるのに対し、訴訟は話し合いが決裂した後の論争と裁判所の判断(判決)に基づく法的強制的解決であることを意味します。
裁判所が判断できることは法令によって限定されるので、当事者の自主的解決手段である調停が当事者の解決したい事柄を柔軟に取り決められることとは大きく異なります。
また、訴訟の場合は、当事者の役割分担(事実や法律に関する主張と事実を裏付ける証拠の提出)や手続きに関する細かいルールが法令等によって予め決められているので、それに従わなければなりませんが、調停のルールは当事者や裁判所の協議や運用に依るところが多く、ルールは柔軟です。
訴訟では、原告が一部(通常は法定相続分)の使途不明金の支払いを被告に求め、その法的根拠は、預貯金や現金などの流動資産の場合は損害賠償請求権や不当利得返還請求権に基づくのが通常です。被相続人と原告以外の相続人の共有名義の不動産などの固定資産に対して被相続人名義の預貯金や現金が使われた場合にも同様な問題がありますが、問題が複雑になるのでここでは割愛します。
訴訟では、原告が被相続人名義の預金が引き出された事実を主張し、その裏付証拠を提出しなければなりませんが、銀行作成の取引履歴を提出すれば良いので立証は難しくありません。そして、個々の引き出し行為を特定して、被告がその行為を行ったことを主張立証します。
被告はそれに対して、①被告は個々の引き出し行為を行っていないこと、②適法な権限(被相続人の同意、後見人や財産管理契約等の法的根拠など)に基づいて引き出したこと、③引き出した預貯金は自分が取得せずに適法に(被相続人の指示や被相続人の利益のためなど)使ったことなどの事実を主張し、その事実の裏付け証拠を提出しなければなりません。被告が被相続人預貯金の管理出納帳や日記などを作ってきちんと管理していればそれらは有力な証拠となります。
最後に「使途不明金」問題にだけではなく相続問題全般に該当することですが、相続人間で紛争が生じるケースは類型化でき、事前に予測することができることを強調しておきたいと思います。
将来被相続人の死後に問題が起きそうな家族関係、親族関係に当てはまる場合には、被相続人自身や被相続人の至近にいて被相続人の財産を管理している配偶者、子、兄弟姉妹などの推定相続人は事前に準備をしておくことをお勧めします。死後に生ずる可能性のあらゆる事態を想定した遺言書や死後委任契約、任意後見契約や財産管理契約や信託契約などのいわゆる「3点セット」だけでは「使途不明金」問題には対処できません。管理出納帳や日記などの活用などを含めた継続的かつ適切な管理や介護活動の体制を構築して行くことが必要不可欠です。
将来の紛争予測と対策を重視する当事務所がまさに得意とする分野です。
所長弁護士渡邉正昭プロフィール
弁護士は、30年以上、弁護士、弁理士、税理士として会社の法務や事件に従事してきました。
また、法交渉心理学者として、家庭裁判所の調停委員、非常勤裁判官として、20年間、相続、遺産分割、離婚などの、家事事件に従事してきました。
さらに、簡易裁判所の司法委員として8年間民事事件に従事してきました。
行政庁の顧問や委員としても20年間活動してきました。
会社・企業事件、家事事件、民事事件の知識経験が豊富で、行政や裁判所の実務にも精通しています。
当事務所は、ペット問題に30年以上取り組み、会社企業法務、公認心理師・臨床心理士、税理士、弁理士、経営経済、行政顧問などの専門性を有する法律事務所です。
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